そしてまた時間は過ぎていく
朝目覚めると右肘から箸が生えていた。
目をこすり布団をめくった時に何か細長いものが当たったような気がして見てみると木目調の箸が、ご丁寧に一膳セットで突き出ていたのだ。
とりあえず起き上がってお湯を沸かしている間に触ってみたりもした。引っ張っても痛みは感じないが絶対に離れないであろうことはわかる、そんな感触。
せめてあまり使わない場所に生えてくればよかったのに、右利きだからかなり困るかもしれない。
案の定スケッチブックに線を引いていると机にコツコツ当たる。当たった瞬間の軽く押されるような感じがくすぐったくて面白かったのは最初のうちだけで、すぐに鬱陶しさが勝った。
困った。外したい。取りたい。
ところで『肘に口をつけることは不可能』という豆知識はご存知だろうか。知らなければとりあえず試みてほしい。絶対できない。
つまり何が言いたいかというと、肘にすら口をつけることができないのに更に向こう側に箸があったって無用の長物。いや無用の木の棒なのだ。
せめて使いたい。外すことがままならないなら使いたい。有用の木の棒にしたい。
そこで練習してみることにした。
かつて無理だと思い込んでいた逆上がりがある日突然できるようになったのと同じで、肘から生えた箸だって使えるようになるかもしれない。
その後、忙しい合間を縫ってはレタスサラダを掴もうと尽力した。
箸の存在に気づいてから13時間ほど経った。ピクリとも動かなかった。
そもそも痛覚神経が通っていないのだから動かすことなど無理だということに気づくのに時間がかかりすぎている。
そしてもう一つ気づいたことがある。
それは、僕は逆上がりが未だにできないということだ。