向こうの耳にも責任はある
僕は滑舌が悪い。だからどうにか少しでも舌が滑らかになるように音読をしている。
訓練メニューは決まっていない。その辺に転がっている文豪全集の中から適当に選んだ司馬遼太郎の短編だとか星の王子様を読み上げる。
気取った呼吸遣いで読み上げているのを隣人に聞かれると恥ずかしいので、洗濯機を回している間とかのカモフラージュ生活音がある時にやっている。
時には滑舌トレーニングでお馴染みの外郎売りを読むこともある。
あれはとんでもない読み物だ。
「口中微涼を生ずるが如し」だとか「御門違いなされまするな」だとか、言っていて小気味の良いフレーズは所々にあるから結構好きな文章ではあるのだけれど、早口言葉のくだりからは完全に立ち往生する。
あそこからの難易度が跳ね上がり過ぎだと思う。あれは滑舌に自信がある人が力試しに読むものだ。RPGでいうところの高難易度クエスト的な。
星の王子様も長いこと音読しているが実はまだ読破はしていない。有名だけどちゃんと読んだことはない作品って結構あるよなあと思い、そんなことを友人と話していた。
僕が「『蜘蛛の糸』は絵本で読んだな」と言うと友人は「え?ペンギンと馬?」と聞き返してきた。
帰宅後、洗濯機を回しながらめちゃくちゃに外郎売りを音読した。