羅列文 休日公園
公園で話しかけやすそうな人がいたから話しかけてみた。ベンチの背もたれ部分を掴んで腕立てをしていたが、挨拶すると笑顔で朝と昼と夜の挨拶をいっぺんに返してくる。
人間くらいの大きさで人間みたいな見た目をしていて人間の言葉を喋っていたが、それは虫と名乗った。
虫は近頃の寒さに悩んでいるという。外気にまみれた手が冷えすぎて自分の手が柔らかめの金属なんじゃないかと錯覚するらしい。
やっぱり飛んでいる間は冷気も一入で寒いのかと訊いてみたら、自分は飛べないよと返された。
虫だって飛べるのと飛べないのが居る。自分は飛べない虫なのだと言った。
たしかに人間のような体の形は飛びにくそうだなと納得して虫の方を見ると、ブランコに視線を向けている。
乗りたいのだろうか。ブランコがあるねと言うと、虫は鳥がいると言った。
ブランコではなく奥のフェンスに止まったセキレイを見ていたようだ。
好きなのだろうか。鳥が好きなのかと言うと、虫は生き物がいたら目で追う。その後で、人と同じだと付け加えた。
たしかに虫がいたら目で追ってしまう。この虫にはよく納得させられると感心した目を向けていると、虫はあなたは見るだけでなく話しかけてきたけどと腹話術風に言った。なぜ腹話術風に言ったんだろう。
虫は冬眠するんだと言って帰っていく。
虫にも冬眠するのと冬眠しないのとがいるんだろうか。最後にそれだけ教えてほしかったなと思いながら帰路につき、家に着く頃にはそれも忘れた。