架空筆者 前橋井鶴
歩道橋研究会の朝は早い。
鳥のさえずりだけがまぶしく解き放たれる寒気の中、日中は人と車が激しく行き交う道路の静けさに白い息を吐き出しながら階段の前に集合する。
大きく分けて歩道橋には一本タイプと交差タイプがあり、基本的に我が研究会は一本タイプの研究を生業としている。
まず車線を真上から見下ろせる歩行空間、研究会用語で言うところの“中央”に立って車両用信号機の点灯タイミングを観察するのだ。鼓動と点灯とのタイミングを一致させる。これが初心者にはなかなか難しい。一年目にはできない芸当だ。
2分、3分と積み重なる時間と反比例して肺の温度は低下していく。辛くなってきた時こそ呼吸を整える。
そして、赤が点く瞬間に息が吐き出された。誤差なし、完全一致。
この瞬間身体と道路がひとつになる。
早朝にもたらされる魂の震え、これだから歩道橋研究会はやめられない。