架空筆者 柳沢洸
だいたい世の中は左利きに不親切なんだよね。
はさみは持ちにくいし、改札通りにくいし。
とか色々言っても、もう左利き人生も20と5年目だから操作を余儀なくされてきた右利き向けコンテンツにもある程度慣れてきた具合。
先週末、優しい同僚が君専用だなんて言って左利き用はさみを渡してくれたが正直今となっては使いにくさすら感じる。
長年の意思なき矯正に疲れてついつい憎まれ口を叩きだしてしまったがこういう他人からの気遣いは単純に嬉しい。めったに行動に移す人間がいないからこそ『その気持ちが有難い』というヤツだ。
こいつは良い人間だ。善人とかそういうのじゃなく、そうだ、大袈裟な物言いをするならーーほんとうの意味で人を救うような。
そんなことを考えていたら同僚がコーヒーをくれた。僕は無意識のうちにその缶を右手で受け取っていた。