終始無表情、声も出さずに
侵入者がいる。
大抵は便所、一度だけ窓際を走っていたことがある。
白っぽい、半透明な、濁っているともいえる体で形としては細長い。足は多くも少なくもなく動きはそこそこ早いがよく止まるから簡単に殺生できる。
蟻やワラジなら素直に「嫌だなあ」と思ってそれなりの反応もできるが、この謎の生物はとにかく何の感情も湧かない。
出てきたら「また居るなあ」と思って手近なちり紙で潰すだけ。そこに恐怖や哀れみはまったくない。かといって、前述の素直に嫌なヤツらが出てくると本気で引越しを考えるのでこれでいいのかもしれない。
3日に1度のペースで現れる侵入者に時たま思いを馳せながら過ごしているのだ。
労働から帰宅すると玄関に居た。
「また居るのかあ」と思いながら脱いだ靴で叩き潰した。
手を洗ってコンタクトを外してからゴミ箱の中のティッシュを取って亡骸を床からこそげとり捨てる。本当に何の感情も湧かない奴らだ。