架空筆者 三嶋祐里
ゆうぐれ時は音の響きがかわる。背景の色がかわる。人の足がうごく速さがかわる。
どうしてだか、いつからか、それらの変化を感じとると肌がびりびりして、でもどうすることもできないから細やかな刺激に震える腕を腕組みの姿勢に交差させて、昼間の熱を吸収しきったアスファルトを睨みつけるだけで。
少しだけ赤くなった腕をほどいてアスファルトを踏んづけて歩く。いつもこのタイミングで、あのオレンジ色の光が消えるまでに帰らないと自分のからだもいっしょに道の中で溶けてしまうんじゃないかと思う。
ふぉとじぇにっくな光景だって自分の身に差し迫った状況なら想像するのはこわい。ランドセルの留め具が外れて不必要にカタカタいうのだってかまわずに家まで走った。
知らない間に街灯がぜんぶ灯って星が見え始める。玄関をくぐったら一安心。
あとは黙っていても明日がくる。明日が来たらまたゆうぐれ時になって今日が終わってまたその明日もーーー
わたしはずいぶん前から今日が終わることがこわい。こわいから、『今日』の残りをチョコチップのアイスといっしょに口の中で溶かしてごまかすのだ。