無理新話①
冷蔵庫の中で冷やして2時間経った。
そろそろ良い具合に冷え固まったかもしれない。
開けて確認したいのは山々だが、冷蔵庫を開ける勇気がない。
取っ手側のドアの隙間から煙が溢れているのだ。
気体では初めて見る色味をしている。あれは何色と言うのだろう。
近づいてみると砂くらいの粒子が目に見える。無臭かつ発光体。手の指先を煙に触れて舐めてみる。無味。
ところで冷蔵庫を開けたら、この煙はどうなるんだろうか。
もしかしたら既に冷蔵庫の中で煙の発生源が成長しきっていて、開けた瞬間に人間を吸収してしまうんじゃないか。
そして煙の色がちょっと乳白色になるとか。
そんな想像をしながら、自分の皮膚がよくわからない色の一端として溶けていくのは嫌だなあと思った。
煙を観察すべく冷蔵庫の前に座椅子を構える。冷蔵庫から溢れ出る煙は、換気扇が作り出す空気の流れに乗って部屋を往来している。
そういえば煙を触ったとき冷気は感じなかった。
冷蔵庫で冷やされたものが発生源ではないのかもしれない。
だとしたら冷蔵庫の製造元に確認を取る必要がある。冷蔵庫から出てくる気体が冷えていないならば冷蔵庫としての役割が果たされていないことになる。
そのためにも、一旦開けないと。
開ける勇気がない。
煙の色をよく見てみることにした。
最初は紫色だと思った。けれど絡まった繊維のように淡い寒暖色が混じり合いそうで合わずに膠着したまま漂っている。総合的に名前をつけるなら『スクランブル色』だろう。
冷蔵庫が黒いから発光する煙はよく映える。だんだん溢れ出る煙の量が増えてきたように感じられる。止めないといけない。
そのためにはまず、開けないと。
ところで何を冷やしていたんだっけ?