ということがあっても良いと思う
ジャンパーのボタンを留めながら歩いていると、イヤホンが耳からぽろぽろ落ちてしまう。
5回ほど取れては着けてを繰り返したのちに諦めてイヤホンを引っこ抜き右ポケットにしまおうとしたら、すでに家の鍵がいた。左ポケットにしまいなおす。
歩道を歩行していると、数メートル先のアパート一階ベランダの下の陰にツチノコがいた。
よくマンガやイラストで見るそれと比較すると幾分か色素は薄く、コーヒーフィルターの色とよく似ている。
もっと近くで見たい好奇心と、(おそらく)野生動物への警戒心とがせめぎあった結果、スマートフォンのカメラレンズを通じて拡大して見ることに。
画質は落ちるが肉眼よりはマシだ。ツチノコはぴくりとも動かないまま、壁の陰に差す僅かな日光を反射させて体表をてらてらさせている。
動かないものをじっと見てみると、ゆっくり動いているような気分になるあの現象は一体何なのだろう。尾の部分に泥の汚れがついて、鱗一枚一枚の輪郭をなぞっている。
ふと、液晶画面で見るのならば別にマンガやイラストと変わりやしないじゃないかと思い、スマホの電源を切って帰宅した。