架空筆者 志波知景
6畳の和室の真ん中。電灯からぶら下がったヒモが上に乗っかる大きさの四角くて重そうな箱がある。朝からずっとある。
出てってほしい。じゃまだし変な色、乳白色をちょっと濁らせたみたいな気持ち悪い色。
爪切り探しに行ってる間に動いた気もするし思い返せば昨日の夜からあったような気もする。
気もするって思い始めたらどんどんそれが正解なんじゃないかって意見が頭の中を埋め尽くしてかき乱してもしかしたら朝目覚めたことも違っててわたしは昨日から一歩も動かずここにこの気持ちの悪いカタマリの前で立っていたんじゃないかとかふざけたことまで浮かんだ挙句におんなじところに戻ってきちゃう。
冷静にならなくちゃ。冷静でいれば全ての勝負に負けないって誰かから聞いたことがあるもの。まず思いださなくちゃいけないのはこの箱がいつからここにいるのかってこと。
でもわたしの方から思いださなくちゃいけないの?だってこの四角くて触ると温いカタマリが突然現れたのに、ばかみたい。今だってぷしゅーぷしゅーとか鳴っててうるさいしさ。
ああ、畳に煙かけないでよ傷みそう。畳と煙の相性なんか知らないけど、傷みそう。
冷蔵庫から出した飲みかけのビール一気に流し込んだけど美味しくない。病む。
こんな四角くて触ると冷んやりした丸いカタマリが絶え間なく屈伸運動している部屋なんて耐えられない。爪全部剥がれ落ちちゃった。
電気消そうと思ったけどヒモを引っ張るにはあのカタマリに触れなくちゃいけない。もうあんな夏の車みたいに熱いものはごめんだし、どうしよう。
そう思っていたら電気が消えた。よかった。部屋はずいぶんせまくなったけどこのままここでぷかぷか浮いていられそうなくらいの温度できもちいい。
仰向けで見る二重の輪っかが月みたいだった。